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木偶坊(でくのぼう)

でく‐の‐ぼう 【木偶坊】

役に立たない人、また気転がきかない人をののしっていう語。

広辞苑第六版より引用


 経理課に異動してからの私は、人にも仕事にも適応できず

帰宅後も、うつうつとして眠りが浅い日々を過ごすようになった。

不適応の原因は、幼い頃から抱えていた場面緘黙社交不安障害

自閉症スペクトラムの傾向である情報処理の問題と感覚の違い等で

あったと、今なら冷静に分析できる。

しかし、当時は訳も分からず困惑と疲労でやる気も失いつつ

あったから、自分の努力が足りないせいだと思い込んでいた。


 ある日、私はとんでもない“失態”を演じてしまう。

書類を書きながら、ついうとうとしてしまったのだ。

すかさず事務長氏に「眠いのか?」と聞かれた。

私は否定しようとしたのに何故か「そうです。」と

言ってしまった。自分でも信じられない失言だ。

即座に凍りついてしまった。周囲の空気も凍りつき、

その氷柱がグサグサと刺さってきた。沈黙が痛かった。


 伝票の件で顧客に電話しなければならない場合も

多々あって、私は緊張のあまり声が小さくなり、滑舌も

悪かった。事務長氏から「もっと大きな声で話すように。」と

学校の先生と同じように注意された。理屈では分かっている。

即座にそうできたら、こんなに悩まない。


 その日の業務が終了し、先輩たちが帰った後

事務長氏にとうとう烙印を押されてしまった。

「お前は何一つまともにできない。使い物にならない。」

私はもう終わりだと悟って、

「だったらお払い箱にしてください。」と言った。

お払い箱になるのだったら両親との約束には反しないから、

それでいいと思った。

事務長氏は、半分感情などない人間だと思っていたであろう

私の言葉にうろたえて「お前は馬鹿か!」と怒鳴った。

私は抑えていた感情が溢れ出して、涙が止まらなかった。

部屋には二人だけだったが、営業マンが時折やってくる。

事務長氏はまだ仕事が残っているので、離れた喫茶店で

待っているようにと私に指示した。私はとぼとぼと

喫茶店まで歩いて、事務長氏が来るのを待っていた。


 事務長氏はやってくるなり、もう一度考え直すように

説得を始めた。「女の子の気持ちはよくわからん。

とにかく、今は自分の可能性に挑戦することが大事だ

と俺は思う。」と言った。

私は少し落ち着いていたのだが、逆に「お前は馬鹿か!」

と怒鳴られたことに腹を立てていた。そして「そんな一般論

を語るより、もう少しましな励まし方を思いつかないのかな。」

と、冷めた気持ちになっていた。その冷めた気持ちを隠すように

うなだれていた。こういうところが、ひねくれて狡いのだと自己分析

していた。「もしかして自分の管理能力を疑われると思った

のかな。」
とか変なことを考えていた。

我ながら可愛げがないと感じた。


そのうち私の中の「強情さ」がむくむくと湧き上がってきて、

「絶対見返してやる!」
と決意した。

とりあえず表向きは事務長氏の説得を聞き入れたということに

しておこう。

ずっと抑えてきた感情を爆発させたことで、私は元気になった。

その意味で、事務長氏にはいちおう感謝している。




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テーマ : アスペルガー症候群・自閉症スペクトラム
ジャンル : 心と身体

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